映画「キサラギ」古沢良太脚本。一言も聞き逃せない密室サスペンス

※記事内に広告が含まれています。

映画「キサラギ」古沢良太脚本。一言も聞き逃せない密室サスペンス

「ALWAYS 三丁目の夕日」で日本アカデミー賞を受賞した古沢良太が書き下ろした、緻密で巧妙な脚本。監督は、「ストロベリーナイト」や「脳内ポイズンベリー」の佐藤祐市。狭い部屋の中で、アイドルの自殺を巡って繰り広げられる5人のアイドルオタクたちの会話劇。

キャスト・スタッフ

【監督】佐藤祐市
【脚本】古沢良太
【出演者】小栗旬(家元)、ユースケ・サンタマリア(オダ・ユージ)、小出恵介(スネーク)、塚地武雅(安男)、香川照之(イチゴ娘)

あらすじ

自殺した売れないアイドル如月ミキの一周忌。ファンサイトを通じて知り合った5人のオタクたちが、某ビルのペントハウスに集まり追悼会をすることに。如月ミキ所縁のグッズや思い出話に花を咲かせる5人だったが、参加者の一人、オダ・ユージが「ミキの死は他殺だ」と言い出し、状況は一変。

次々と明かされる意外な事実と5人の男の正体。そして、この中に真犯人がいるかもしれないー、とお互いを疑いだす男たち。それぞれが知っている断片的な情報をもとに、やがて、ひとつの真実へとたどりつくー。

Toko point見どころ・感想

伏線が散りばめられた巧みな構成による脚本

原作・脚本は、「コンフィデンスマンJP」「リーガル・ハイ」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「ALWAYS 三丁目の夕日」などのヒット作でも知られる古沢良太さん。登場人物の会話のひと言ひと言が、後に明かされる真実に繋がっていくという、非常に緻密な構成に溜息がでます。何気ない会話のようで、そこには大きな秘密が隠されています。鑑賞後も、何度巻き戻して観たか分かりません。

5人のアイドルオタク

古沢脚本は、そのストーリーの展開の面白さに加えて、登場人物達のキャラクターが個性的で魅力的です。本作に登場する5人の男たちも、くせ者ばかり。結末のネタバレをできるだけしないでご紹介します。

家元(小栗旬)

まとめ役。如月ミキのことなら誰よりも詳しいと自負している男。ファンサイトの管理人で追悼会の主催者。職業は自称公務員。過去3年間に渡り、週に1通、合計200通ものファンレターを送っています。一般に流通していない情報も含め、如月ミキの情報をほぼ100%集めていて、追悼会でも自慢の『如月ミキパーフェクトコレクション』を披露します。しかし、そんな風に知識をひけらかしていた彼のプライドが、後半、滑稽なまでに崩されていくのが見どころです。

「何が如月ミキ愛好家家元だ……何がミキちゃんに関することなら誰よりも詳しいだ……僕よりミキちゃんに近い人物がどんどん現れる」(家元)

オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)

非常に細かくて神経質な男。真犯人を見つけ出すために、この追悼会の開催を家元に持ちかけた張本人です。オダ・ユージというバンドル名は、軽い気持ちで有名人の名前からつけてしまったらしい。ユースケさんが、「オダ・ユージ」という役名とういのが、もうそれだけで可笑しくなります。劇中では、オダ・ユージが、理性的に分析をして他の4人を追求していきます。そして、実は彼は、如月ミキに関係する重要な人物でもあります。

「亡くなった人間に対する真摯な思いがあるのならば、おのずとそれにふさわしい服装というのがあるんじゃないでしょうか」(オダ・ユージ)

スネークが話の腰を折るので、「ちょっと黙ってて」というシーンも大好きなのですが、この冒頭のシーンで、「気軽なパーティなんでラフな感じで」という家元に喪服に着替えるよう促す場面も印象的でした。面倒くさい人来たなという印象を与え(ユースケさん演じられているせいなのか、本当に面倒くさい人感がすごいです)、これから何かしでかすであろうという期待が高まりました。

スネーク(小出惠介)

雑貨屋で働いている元バンドマン。お調子者でとにかく話を掻き回します。話に首を突っ込んで無駄に盛り上げます。そしてすぐに脱線します。

「アロマキャンドルってツラか。毎日香で十分だ!」(スネーク)

如月ミキの影響でアロマキャンドルにハマっているという書き込みをしていたイチゴ娘。しかしミキがアロマキャンドルを愛用しているという情報は、どのインタビューでも語られていない情報でした。そのことで、ストーカーとして疑われ、オダ・ユージから追求されます。その横でチャチャを入れるスネークのセリフです。テンポが良くてスネークがうるさくて、オダ・ユージならずとも、うるさいと言いたくなって笑えます。

安男(塚地武雅)

一人だけ本名をバンドルネームにしている、福島県から上京してきた男。一人だけ喪服ではなくカジュアルな格好をしてきてしまったため、盛り上がれないと、近くの紳士服店に喪服を買いに行きます。やっと戻ってきたと思ったら、持参したアップルパイのリンゴが腐っていてお腹を壊しトイレに籠る。つまり、殆ど前半は不在なのです。ちょいちょい戻ってくるものの、まったく話について行けません。しかし、この男もまた、如月ミキにとっての重要な人物であり、どんでん返しがあります。

「あの……しゃべってもいいですか」(安男)

話に入れて貰えず、「黙ってて」と言われてしまう安男。その安男がとんでもないカードを切る瞬間です。

イチゴ娘(香川照之)

名優香川照之さんが、髭ずらでイチゴのカチューシャをしてるビジュアルだけで、絶対面白いと思いますよね。オッサンでアイドルのオフ会に参加しているという怪しい役どころです。途中、ストーカーに疑われたりしますが、とにかく終始、怪しくてちょっとキモくてという役を香川さんが面白可笑しく演じられています。

「僕はただ窓を閉めてあげようと思っただけだ。排水管をよじ登ったら、ベッドが乱れているのが見えた。そうなったら当然、たたんであげなきゃと思うだろ」

ストーカーとして追及された時の言い訳です。思考が完全にストーカーなんですが、この男もまた如月ミキとの意外な関係が後半に明かされます。このシーンで、「詳しく聞かせて。ミキちゃんちってどんな感じ」と、家元やスネークがちょっと羨ましそうに聞くのもまた可笑しいです。

まるで舞台を観ているかのようなワンシチュエーションドラマ

もともと舞台用に書かれた脚本ということもあり、狭い部屋の中で、限られた登場人物の会話でストーリーが展開してく本作は、まるで舞台を観ているような気分になる映画です。賛否あると思いますが、あえて、映像で見せるところをすべて会話の面白さで表現している映画だと思います。会話の中で出て来る回想シーンの映像も、リアルな映像ではなくてコミカルに作ってあり、会話もありません。その部屋の中の会話だけが動きをもっています。出演されている5人の俳優の演技も舞台っぽいですが、テンポのよいセリフと息のあった間を存分に楽しめると思います。

キサラギを観るには?

残念ながら、主だった動画配信サービスでは視聴できないようです。(2020年3月現在)しかしながら、DVD、Blue-rayともに手ごろな価格になっています。何度も細部を見返したくなるので、メディアで持っておくのもアリかと思います。