映画「寝ても覚めても」ただの恋愛映画ではない!ヒロインの朝子は純粋か身勝手か

映画「寝ても覚めても」ただの恋愛映画ではない!ヒロインの朝子は純粋か身勝手か

作品紹介

カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した「万引き家族」と並んで、コンペティション部門に出品された作品。原作は、芥川賞作家である柴崎友香による同名の恋愛小説。昔の恋人とそっくりな男性と恋に落ちる女性の揺れ動く心情を描く。

恋愛映画を観て「胸キュンしたい」「こんな恋がしたい」と思うときには、おすすめできる作品ではないです。綺麗ごとだけではない恋愛に、心がぞわっとして、背筋がゾクっと震えます。

キャスト・スタッフ

監督:濱口竜介
原作:柴崎友香
脚本:田中幸子、濱口竜介
出演者:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子 他

あらすじ

東京。丸子亮平は勤務先の会議室へコーヒーを届けに来た泉谷朝子と出会う。ぎこちない態度をとる朝子に惹かれていく亮平。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながら朝子も惹かれていく。しかし、朝子には亮平に告げられない秘密があった。亮平は、2年前に朝子が大阪に住んでいた時、運命的な恋に落ちた恋人・鳥居麦に顔がそっくりだったのだ――。

5年後。亮平と朝子は共に暮らし、亮平の会社の同僚・串橋や、朝子とルームシェアをしていたマヤと時々食事を4人で摂るなど、平穏だけど満たされた日々を過ごしていた。ある日、亮平と朝子は出掛けた先で大阪時代の朝子の友人・春代と出会う。7年ぶりの再会。2年前に別れも告げずに麦の行方が分からなくなって以来、大阪で親しかった春代も、麦の遠縁だった岡崎とも疎遠になっていた。その麦が、現在はモデルとなって注目されていることを朝子は知る。亮平との穏やかな生活を過ごしていた朝子に、麦の行方を知ることは小さなショックを与えた。

一緒にいるといつも不安で、でも好きにならずにいられなかった麦との時間。
ささやかだけれど、いつも温かく包み、安心を与えてくれる亮平との時間。
朝子の中で気持ちの整理はついていたはずだった……。 (公式HPより)

原作「寝ても覚めても」柴崎友香

第32回(2010年)野間文芸新人賞受賞作である、同名の恋愛小説。映画では、原作とは少し違う設定やストーリーが展開しますので、原作も読んでみるとまた違う面白さがあります。

みどころと感想

※映画は文字ではなく映像で観た方が断然よいので、詳しいネタバレはできるだけしないようにしていますが、今回は少しネタバレが含まれます。

感情が分かりにくいヒロイン・朝子を演じた唐田えりか

朝子(唐田えりか)の大阪時代の友人・春代(伊藤沙莉)や、朝子とルームシェアをしていたマヤ(山下リオ)が、怒ったり泣いたり笑ったりと感情豊かに描かれているのと対照的に、朝子は口数も少なく表情も変わらず、何を考えているのかイマイチ分かりにくいヒロインです。その意味では、掴みどころがなく、ふらりとどこかに消えてしまいそうな麦(実際に忽然と朝子の前から消えてしまう)と、朝子は似ているところもあるのかもしれません。朝子と麦の出逢いを描いたオープニングシーンは、「恋に落ちる」という言葉がぴったりのシーンになっていました。無表情でじっと麦を見つめる朝子の視線の強さが印象的で惹き込まれました。

演じたのは、唐田えりかさん。実は、よく知らない……(ごめんなさい)。でも、どこかで見たことあると思ったら、back number「ハッピーエンド」のMVに出演していた方でした。MVでは、とても透明感のある美少女という印象でしたが、本作では朝子という感情表現の少ないヒロインを好演されています。

唐田えりか

1997年9月19日生まれ、千葉県出身。アルバイト先のマザー牧場で現在の事務所にスカウトされる。テレビドラマでは「こえ恋」、「ブランケット・キャッツ」、「トドメの接吻」などに出演。2018年10月公開の「覚悟はいいかそこの女子。」(井口昇監督)でもヒロインに抜擢される。

朝子に共感できる? できない?

亮平と付き合い始めてからの朝子は、確かに幸せな日常を過ごしていますが、時折、どこか違うところを見ているようなところがあります。麦がいつどのように現れるのかなと、ある種の期待と不安で観ていると、終盤、朝子は思いもよらぬ行動をとります。この朝子の行動は、賛否が分かれるところで、共感できる人とそうではない人がいるようです。少しネタバレになりますが、私は、心の中で「躊躇なくついて行ったな~」「え、もう、戻るんかい!」「ええ、そこで開き直るん!?」と突っこんでいました(笑)。そういう行動をとる瞬間があると分かる気もするし、実際に行動がとれる人に憧れを抱きます。でも、きっと自分ではやらないだろうな……と思います(多分)。

麦という恋の亡霊

朝子が麦と出逢い恋に落ちる、その出逢いのシーンから麦は何だか実在する人じゃないような感じすらします。現実離れした非日常の人。その対象にいる亮平は日常に息づいている人。ラブストーリーでは、「忘れられない昔の恋人が迎えにくる」ことは、長年にわたる恋を成就させて、もしくは反対に夢から覚めたと現実の目の前にある幸せを噛みしめて、それでハッピーエンドになることがよくあります。しかし、本作では、そのシーンがものすごくザワっとゾクっとしました。これは朝子の夢なのか? もしくは、この麦は、もはやこの世の人ではないのではないか?とすら疑ってしまいました。これは、映像で観て、あのゾクっとした感じを体験していただきたいです。そして、本作は、そこがエンドではありません。まだ続きます。

亮平と麦を演じたのは東出昌大さん。映画「桐島、部活やめるってよ」で俳優デビュー。長身でスラっとした爽やかなイメージがありますが、寄生獣では、頭パッカーンと割れたり、ドラマ「あなたのことはそれほど」では、薄気味悪いつくり笑顔の後に狂乱してワインをぶちまけたり、映画「聖の青春」では、なんと、あの天才棋士の羽生善治さんを演じられています。本作でも麦と亮平と正反対のキャラクターを演じられていますが、東出さんが演じる麦は、掴みどころがなくて何考えてるんだか分からなくて、後半怖いです。東出さんは、見た目のイメージとのギャップなのか、少し変わった人物の演技が怖くて好きです。

このセリフに注目

「麦は亮平やない」(朝子)

一度は麦についていくも、本当に大切なのは亮平だと気づいた朝子のセリフ。「逆転した」瞬間です。麦と顔が似てるということが初めのキッカケで、亮平のことを好きになった朝子。「亮平は麦やない(麦の代わりじゃなかった)」と言ってもいいところ、「麦」が「亮平」ではないと気付くという、亮平が既に「本当に大切な人」として朝子の軸になっていると思いました。

「間違ってないことをしたかってん」(朝子)

これも朝子のセリフ。終盤、朝子と亮平が大阪に引っ越すことになり、友人達とレストランで食事をするシーンで、被災地ボランティアのことを訊かれて朝子が答えたセリフです。とても好きなセリフです。朝子にとっての「間違ってること」って何だろう、なぜ彼女は「間違ってないこと」をしたかったのか……。本作は、登場人物達が、特に朝子が、気持ちや理由を直接的な言葉で語りません。彼らの行動から観客に想像させます。中盤で、亮平と一緒に暮らしている朝子が「私、亮平のこと好きやで」というシーンがあるのですが、言葉にされる彼女の気持ちは、何だか嘘っぽい。自分に言い聞かせているかのよう。一方で、朝子が取る行動には、嘘がなくて、彼女の本当の気持ちなんだと想像させられました。

主題歌「RIVER」tofubeats がヒントをくれる

恋は盲目と言いますが、見えなくなるのは回りのことばかりではなく、自分自身のこともです。この後、この二人はどうなって行くんだろうと観客にその答えを委ねて映画は終わります。本作の主題歌は、tofubeatsが書き下ろした「RIVER」。その歌詞の中にヒントがあるように思います。

二人の愛は、
流れる川のようです
とぎれることないけど
つかめない

いろんな愛を
集めた色のようだ
喜びも悲しみも
映してる

(一部抜粋)

雨が降って増水した川を眺めながら、朝子と亮平が交わす会話がとても印象的です。

感想を書きながらますます思いましたが、鑑賞後に誰かと語りたくなる映画でした。共感できる、できない。許せる、許せない。すごく色々な意見や恋愛観が聞けそうです。